四方山 中央高校二年一組 双子の姉弟と椿
「日向(ひなた)くん! 帰りマック行かない?」
チャイムが鳴る三分前に教室に到着した日向に、Aは意気揚々と話しかけた。
「何目的?」
自分の机に鞄を置きながら尋ねる。
「限定のシェイク」
「それなら遠慮しとく」
すぐに返事があって、その思わぬ言葉にAは驚いた。
「そお? いつもなら乗ってくれるのに」
唇を尖らせるAに、呆れ顔をする日向。
「Aさん、いま何を控えてるか分かってる?」
「え。なんだっけ」
「おいおい。あ、翔真~! 今日暇?」
席に着き、本を読んでいる親友の姿を見つけて、日向はそちらへ行ってしまった。Aは未だに日向の言う意味が解せないようで、会話を終えたあとも渋面を作って日向の姿を目で追う。
「暇じゃない。勉強する」
日向のほうを見上げ、返事をする翔真。それを聞いて日向は微笑む。
「だろうね。行ってもいい?」
「うん」
「え~、何、日向くん。急に真面目じゃん」
日向と翔真の会話に聞き耳を立て、口をへの字にし、ぼそりと不満を口にしたAを見て、そこを通りかかったBが溜息をつく。
「急にでもないでしょ。てか知らないの? 中間試験、再来週じゃない。馬鹿」
「あ。日向くんが言いたかったのってソレかあ」
深く頷くB。
「えー、でも再来週でしょ? まだ一週間くらい遊んでも平気だよ。部活やバイトだって、やめろって言われるの一週間前だし」
「赤点逃れてさらにそこそこ点数が取れれば良いならね。鴫野くんは違うじゃない」
「そーいえば、いつも十位以内だっけ」
日向と翔真は、AとBが噂しているのも構わず会話を続けている。
「別に構わないけど、鴫野さんと勉強すればいいじゃないか。前はそうだっただろ」
翔真の言う「鴫野さん」とは、日向の双子の姉である深月のことだ。成績優秀な彼女は、十位以内とは言わず、常に三位以内に鎮座する。とはいえほとんどの場合は一位だ。因みに翔真は五位以内である。
「おれだって、そのほうがモチベーション上がるけどさあ……。姉さんは今年から生徒会だろ? なんか、その関係の仕事が立て込んでるらしいんだよね」
日向はがっくりと肩を落とす。
「忙しいな」
「でしょ。一週間前はさすがに解放されるっぽいけど、二週間前から一緒に勉強するのは無理そうだって。かといって、おれは最低でも二週間前から勉強しないといつもくらいの成績なんて取れっこないし……」
普段からの勉強を怠らない翔真や深月とは異なり、日向は日常的な勉強にはあまり力を注がず、その代わり二週間前からがっつりと勉強することで良い成績を保っている。そのため、一週間前からの勉強では普段の成績を保つには時間が足りないのだ。
「姉さんなしで勉強するなんて……」
嘆息する日向を翔真は無言で見つめ、相変わらずシスコンだな、と心中で呟いた。会いたい人がいるがために高校卒業後は海外留学をしようと考え、勉強やバイトに精を出している翔真も似たようなものだと思われるが。
「でも、がんばれって言われたし、一緒にできなくてごめんなって言ってくれたから、がんばらんと」
「……そうだな。鴫野さんがいなくて悪い成績を取ってしまったら、罪悪感を抱かせてしまうかもしれないし。ちゃんと見てやれば良かった、とか」
「うん」
がらりとドアが開く音がして、入室する先生の姿が二人の目に入る。
「あ。じゃ、今日の放課後はよろしく」
「分かった」
(2019年12月30日)
チャイムが鳴る三分前に教室に到着した日向に、Aは意気揚々と話しかけた。
「何目的?」
自分の机に鞄を置きながら尋ねる。
「限定のシェイク」
「それなら遠慮しとく」
すぐに返事があって、その思わぬ言葉にAは驚いた。
「そお? いつもなら乗ってくれるのに」
唇を尖らせるAに、呆れ顔をする日向。
「Aさん、いま何を控えてるか分かってる?」
「え。なんだっけ」
「おいおい。あ、翔真~! 今日暇?」
席に着き、本を読んでいる親友の姿を見つけて、日向はそちらへ行ってしまった。Aは未だに日向の言う意味が解せないようで、会話を終えたあとも渋面を作って日向の姿を目で追う。
「暇じゃない。勉強する」
日向のほうを見上げ、返事をする翔真。それを聞いて日向は微笑む。
「だろうね。行ってもいい?」
「うん」
「え~、何、日向くん。急に真面目じゃん」
日向と翔真の会話に聞き耳を立て、口をへの字にし、ぼそりと不満を口にしたAを見て、そこを通りかかったBが溜息をつく。
「急にでもないでしょ。てか知らないの? 中間試験、再来週じゃない。馬鹿」
「あ。日向くんが言いたかったのってソレかあ」
深く頷くB。
「えー、でも再来週でしょ? まだ一週間くらい遊んでも平気だよ。部活やバイトだって、やめろって言われるの一週間前だし」
「赤点逃れてさらにそこそこ点数が取れれば良いならね。鴫野くんは違うじゃない」
「そーいえば、いつも十位以内だっけ」
日向と翔真は、AとBが噂しているのも構わず会話を続けている。
「別に構わないけど、鴫野さんと勉強すればいいじゃないか。前はそうだっただろ」
翔真の言う「鴫野さん」とは、日向の双子の姉である深月のことだ。成績優秀な彼女は、十位以内とは言わず、常に三位以内に鎮座する。とはいえほとんどの場合は一位だ。因みに翔真は五位以内である。
「おれだって、そのほうがモチベーション上がるけどさあ……。姉さんは今年から生徒会だろ? なんか、その関係の仕事が立て込んでるらしいんだよね」
日向はがっくりと肩を落とす。
「忙しいな」
「でしょ。一週間前はさすがに解放されるっぽいけど、二週間前から一緒に勉強するのは無理そうだって。かといって、おれは最低でも二週間前から勉強しないといつもくらいの成績なんて取れっこないし……」
普段からの勉強を怠らない翔真や深月とは異なり、日向は日常的な勉強にはあまり力を注がず、その代わり二週間前からがっつりと勉強することで良い成績を保っている。そのため、一週間前からの勉強では普段の成績を保つには時間が足りないのだ。
「姉さんなしで勉強するなんて……」
嘆息する日向を翔真は無言で見つめ、相変わらずシスコンだな、と心中で呟いた。会いたい人がいるがために高校卒業後は海外留学をしようと考え、勉強やバイトに精を出している翔真も似たようなものだと思われるが。
「でも、がんばれって言われたし、一緒にできなくてごめんなって言ってくれたから、がんばらんと」
「……そうだな。鴫野さんがいなくて悪い成績を取ってしまったら、罪悪感を抱かせてしまうかもしれないし。ちゃんと見てやれば良かった、とか」
「うん」
がらりとドアが開く音がして、入室する先生の姿が二人の目に入る。
「あ。じゃ、今日の放課後はよろしく」
「分かった」
(2019年12月30日)